Friends, confess that with us perishes...

Last modified: Sat May 08 01:50:47 東京 (標準時) 2004

Friends, confess that with us perishes


皆さん、我々とともに滅びます...。

これは、小説「クォ・ヴァディス」(作・シェンキェヴィチ)の登場人物、ペトロニウス・アルビテルの最後のことば。
タキトゥスの年代記にある、ペトロニウスの臨終に関する記述を下敷きにしていると思われるシーンだ。

ペトロニウスは、「趣味の審判者」(Arbiter Elegantiae)と呼ばれた人物で、その当時の世界(=ローマ帝国)における「美」「快楽」「典雅」の最高権威者であり、その故に彼の主君であり、友人であるところのネロ(世に知られる暴君ネロ、ユリウス・クラウディウス朝最後の皇帝)に「審判者」の称号を帯びることを許されたディレッタントである。
彼が記したとされる「サテュリコン」は世界最古の小説として知られる。

ちなみに、弊DOMVS ELEGANTIAEの名は、彼の称号にあやかるものである。
まあ、世間ではやはり「クォ・ヴァディス」のペトロニウスなわけで、私もそのクチなのだが。

私の伯母が若い頃には「クォ・ヴァディス」が流行っていたらしく、ずいぶん熱心に読んだものらしい。
伯母に言わせると「ペトロニウスほど、格好のいい男性はいない」そうだが、それは無論おはなしとして美化されたペトロニウスを愛していたということだろう。

さて、今日の言葉は年代記には見当たらないので小説「クォ・ヴァディス」の創作のようだ。
ペトロニウスは、時の帝ネロから死を賜り、愛妾エウニケとともに自死する。
その折に、彼は彼の友人一同を集め、Arbiterの称号にふさわしい典雅極まる宴を催す。
そして発する、今際のことばがこれだ。

皆さん、我々とともに滅びます...。

彼の腕は美しい妾の首を抱くように力なく崩れ、その言葉の続きが発せられることはなかった。
一体なにが、彼らとともに滅びるというのか...?

それを語ることばはどこにもなかったが、彼の友人たちはペトロニウスの死とともに、自分たちがなにを失ったのかを悟ったのだ。
滅び行くこの世界に、その瞬間まではペトロニウスが宿していたもの...。
それを失ったのだ。
すなわち、この爛れた世界に、それまでは残されていたもの...。詩と芸術が滅びたのだ。

伯母さん。
こんな人は人類四千年の歴史の中で、ペトロニウスしかいませんよ...。



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